彼(=ペン)は立板に水を流すがごとく娓々(びび)十五分間ばかりノベツに何か云っているが毫(ごう)もわからない。能弁なる彼は我輩に一言の質問をも挟さましめざるほどの速度をもって弁じかけつつある。我輩は仕方がないから話しは分らぬものと諦めてペンの顔の造作の吟味にとりかかった。
(中略)
無心に見つめていたが、やがて気の毒なような可愛想のようなまたおかしいような五目鮨司のような感じが起って来た。我輩はこの感じを現わすために唇を曲げて少しく微笑を洩らした。無邪気なるペンはその辺に気のつくはずはない。自分の噺に身が入って笑うのだと我点したと見えて赤い頬に笑靨(えくぼ)をこしらえてケタケタ笑った。この頓珍漢(とんちんかん)なる出来事のために我輩はいよいよ変テコな心持になる、ペンはますます乗気になる、始末がつかない。
この記事にトラックバックする