久々の文学絵。ツルゲーネフの『その前夜』

これも、もうかなり以前に読了したのですが…
ドストエフスキー萌えの延長でロシア文学に手を出していたころ読んだものです。
ツルゲーネフといえば、日本では『初恋』が有名ですよね。
たしか、初邦訳は二葉亭四迷だったように記憶しています。まぁ私が読んだのは、沼野恭子先生の訳でしたけど。
ツルゲーネフは生涯通して政治色の濃い作品を書き続けましたが、『その前夜』もそういった作品のひとつであると言われております。
…そうか?と思ってしまいましたけど;
だって政治色が濃くなってくるのはほんとにほんと、終盤以降でしたもの。
それまでは恋愛問答とかエレーナ嬢の 女王様チックなわがまま暴走 っぷりがメインみたいなものだったと思います(言い過ぎ)。
「愛がなくてどうして生きていけよう?だが誰も愛する相手がいない」↑インサーロフ、シュービン、ベルセーネフ…3人のイケメンからアプローチされまくっているのに こんなコト言ってのけるんですよ?
いいな。ひとりくらい わけてほしい。という冗談はさておき、
この本を読んで一番違和感を感じた点。
主人公は結局誰なの。
最初はベルセーネフだと思ってました。(悪いけどシュービンは主人公らしい性格ではナイ。)
けど、途中から登場したインサーロフが主役格を横からさらって行ってしまいました。…エレーナの愛も。
で、終盤に至り、初めてこの物語が、
エレーナ嬢によるエレーナ嬢のための物語だったのだと気づきました。
なるほど読み返してみると、この作品中でもっとも心理的記述が多いのはエレーナなのでした。
『愛がなくてどうして生きていけよう?だが誰も愛する相手がいない』
突然に何か強い、名状しがたいものが彼女の中に沸き立ち、しきりに外へ迸り出ることを乞うのであった。↑これがラストへの布石だったのですね。
彼女はインサーロフと恋におち、祖国解放のためにロシアを去ると言うインサーロフについて行った。
しかし哀しいかな、彼の地でインサーロフは病没。残されたエレーナはロシアへは戻らず、生涯を 夫のなしえなかった事業のために費やす運命を選んだ…。
なんか、ジャンヌ・ダルクみたいですね。戦う女性?ってかんじで。
さて、彼女はインサーロフとの出会い、母国からの出奔を経て、自分の中で生きる意味というか、目的を獲得したのです。
籠の中の鳥だったエレーナの人間的成長──作者ツルゲーネフは、これをテーマの一つに据えたのではないでしょうか。

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